ゴルフヒストリー

NICE ON 4月号【Vol. 438】


日本製初のゴルフレッスン書は
アマチュアが出版したものだった

コースデビューする前には、実践練習としてゴルフ練習場で球を熱心に打ち込むとともに、あわせて教本となるのがゴルフ入門書、初心者用や中堅者用の技術編となる。
そんなレッスン書というと、大概は外国の著名プロが説く技術論を翻訳したものやレッスンプロの解説書など、またビデオ(映像)によるものが一般的だ。では、日本で日本人が書いた最初のレッスン書もプロによるものかというと、意外やそれはアマチュアの手になるものだった。

それはいつ、どういった形で出版されたものなのか、日本のゴルフ史の中でも興味がそそられる話題だ。日本でゴルフが普及し始めたのは昭和の中期といわれる。そのレッスン書は、日本でゴルフが一部の階層で興じられていた過渡期から脱して、一般にもようやくその存在が知られるようになった昭和初期に発刊された。
「正しいゴルフ」と題されたその教本の著者は、なんとプロではなく、アマチュアの白石多士良氏(工学博士)。1931年(昭和6年)に東京のスポーツ専門の出版社から出されたものだ。当時は、ゴルフに関する技術書が少なかっただけに、ゴルファーの間では話題になったという。
この教本、アマチュアが書いたものだけに、その序文がいかにも奥ゆかしい。
「ゴルフは始めるのは容易だが、それに達するのは難しい。その奥義を説く資格はないのだが・・・・・・、」という極めて控えめといえるコメントを載せている。
編集の構成は、ラウンドでプロにコーチされた自らの経験(ケースバイケース)を記述したもので、技術解説に当たっては自らの持論の展開はしていない。

プロが語る基本的な理論を紹介し、レッスンへと導くという手法。プロのスイング写真を掲載し、状況をわかり易くしたものだ。解説は自らが師事する赤星四郎、六郎によるスイング理論を、実際のスイングは浅見緑蔵や陳静水プロのものを用いている。そして、悪い例として、自らの経験を紹介し、対比形式になっているのも説得力が増す。
著者は、日本アマチュア選手権や東西対抗戦にも出場するくらいの腕前だった。赤星兄弟プロのゴルフ思想や技術論に傾注しており、その理論の普及に情熱を燃やしたという。本業の土木事業に従事する傍ら、ゴルフ専門誌を発行する出版業も起業した。
日本人が書いた、日本人のための最初のゴルフレッスン書。「正しいゴルフ」が、日本の以後のゴルフの普及に果たした功績は多大なものがある。日本のゴルフの発展史の中でもなんともノスタルジックな風が感じられる話題といえよう。

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