ゴルフヒストリー

NICE ON 1月号【Vol. 435】


バンカー進化論

われわれアマチュアゴルファーにとって、バンカーでの不運は、格好のゴルフ談義の話題となる。あの時、バンカーに入っていなければ・・・などなど、言い訳の材料ともなる。
バンカーの変遷をその歴史とともに追ってみたい。
もともと、バンカーは、海岸にあるリンクスの砂丘の風下側の斜面にできた窪みだったという説が史実では一般的。放牧された羊の群れが強い海風を避けるためにたむろした場所であった。さらに、平坦な場所にできた小さな窪みも羊が風を避けて休息を繰り返すと、だんだん深くなっていった。これが、ポットバンカーになったという。
これが、リンクスのバンカーの起源とされる。

英国でゴルフブームが到来した19世紀の末には、多くのゴルフコースが建設された。当時のゴルフは本来のゲーム性から離れて、競馬の障害物競走の類と考える風潮が強かった。したがって、バンカーは、ゲーム上で越えなければならない障害物として位置づけられ、コースの設計も枕木を使った構造物であったり、フェアウエイを完全に切断するクロス・バンカーで、これが主流となっていた。
この流れが変わったのは20世紀に入ってからだ。バンカーはハザードの主体と考え、リンクスの原点に立ち返って、自然の特色をも折り込むという考え方が主流になった。
それとともにコース設計に戦略性という概念が吹き込まれた。これによってクロス・バンカーが姿を消し、サイド・バンカーが一般的となった。

昨今、テレビ観戦でよく遭遇する場面として解説者のコメントに「バンカーに入ったのはむしろ幸運ですね」というものがある。グリーン周りの深いラフや悪いライよりバンカーからのショットのほうが易しいという見方からだ。「むしろ、狙って打った」などだ。これにはわれわれアマチュアは違和感を覚える。バンカーは、避けるべきハザードという認識で育ってきたからだ。本来、バンカーはミスショットをキャッチし、ペナルティーが与えられる役目をもつもので、それがゴルフというものの原型と教えられてきたからである。しかも、バンカーの砂は同じ種類のもので統一され、易しく設定されている。
もうひとつ気になるのは、バンカーに配置されたレーキの位置だ。サイドに置かれていれば、ボールがバンカーに入るのを防ぐ役目を果たす。こういったことを避けるためにはレーキはバンカーの中央部分におかれるべきというのが適所といわれる所以。

本来、バンカーは入れてはならない場所のはずだった。ただ、バンカーに入ったボールの位置もさまざまである。砂の少ない更地同然のようなところだったり、深い砂の中に埋もれていたり、左側か右側、はたまた後ろ側にしか出せないところに止まっていたりと、極めて「運」「不運」に左右される。だから、そういった状況は、ゴルファーとしては偶然の産物として素直に受け入れるのが本来の姿だろう。
記憶と記録のゴルファーといわれるジャック・二クラス。世界に多くのコース設計を手掛け、日本でも数コースの作品を残しているが、彼の設計論の中で、バンカーについて触れているので見てみよう。
技術的に良いショットは、全て報われるべきという考えが設計の基本にある。そして、バンカーを4つの視点・要素から捉えている。①ボールをトラブルから守る“ファンクショナル”、②ショットの目標となる“ターゲット”、③美観を彩る“エステティック”、④ミスショットを捉える“ピーナル”という位置づけだ。
英国の伝統的な考え方を礎としてはいるものの、時代の流れがゴルフのカタチを変えてきた。コース設計家だけでなく、プロゴルファーも自らの経験・考え方を元に設計に携わっている。ゴルフが米国に渡来して1世紀を超えた。コース設計におけるバンカーの位置づけも役割、存在、形状も進化している。オリンピックの正式種目としても返り咲いた。ゴルフの歴史とともに、その場面場面を切り取ってみるのもいい機会だ。

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